ジャズのアドリブは、一見すると自由奔放なひらめきの連続に聞こえます。しかし、そのソロを細かく分解すると、そこには驚くほど精密な「音の配置ルール」が存在することがわかります。
今回は名曲『Now’s the Time』のソロ冒頭4小節を題材に、パーカーがどうやってメロディを組み立てているのか、その正体を解き明かします。

目次
鉄則:1拍目と3拍目に打ち込まれた「コードトーン」
パーカーのフレーズにおいて最も重要なルールは、**「奇数拍(1.3拍)の表に、コードの構成音(1, 3, 5, 7度)を配置する」**ことです。
アウフタクトから続く2小節を拍数で分解すると、驚くほど正確にコードの核となる音が並んでいることがわかります。
- 1小節目(D7想定):
- 1拍目表:D(ルート)
- 3拍目表:F#(3度)
- 2小節目:
- 1拍目表:A(5度)
- 3拍目表:F#(3度) ← ここがポイント!
このように、1拍目と3拍目のアタマにしっかり構成音を配置し続けることで、どれだけ音が跳躍しても、聴き手はコード進行の軸を見失うことがありません。
解析:目的地へピタリと着地する「歩数調整」
では、この「1拍目」から「3拍目」までの間を、パーカーはどう埋めているのでしょうか。ここに彼の真骨頂である**「歩数調整(クロマチック・アプローチ)」**の技術があります。
1小節目の D → E → F → F# という動きに注目してください。
- 逆算のロジック: 1拍目の「D」から3拍目の「F#」へ向かう際、通常のスケール(D-E-F#)では音が1つ足りず、3拍目のアタマより早く着いてしまいます。
- 解決策: あえて音階にない「F(ナチュラル)」を差し込み、音を4つ(D, E, F, F#)に増やすことで、3拍目のアタマにピタリと目的地である「F#」が来るように調整しているのです。
解析:コードを先取りする「4拍目の先行着地」
2小節目の最後、4拍目の動きにもパーカーらしい工夫が見られます。
- 2小節目4拍目表:B
この「B」は、次の3小節目のコード G7 の3度にあたります。次のコードの重要音を、小節が変わる直前の「4拍目表」で鳴らすことで、スムーズかつスリリングに次の展開へと橋渡しをしています。
まとめ:パーカーが教えてくれる「アドリブの正体」
この4小節をまとめると、パーカーの奏法は以下の3つのステップで成り立っています。
- ターゲット(1・3拍目)を決める:コードの1度、3度、5度など、骨格となる音を置く。
- 歩数を数える:次のターゲットまで、8分音符がいくつ必要か逆算する。
- 隙間を埋める:音が足りなければ「半音階(クロマチック)」を足して、拍のアタマにピタリと合わせる。
「自由な即興」に見える裏側で、パーカーは驚異的な精度でこのリズムの算数を解いています。この緻密な設計図こそが、ビバップの心地よいスピード感の正体なのです。

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