前回はパーカーの「逆算のロジック」を解説しましたが、今回は彼の「色彩感覚」に注目します。題材は『Now’s the Time』ソロの37〜40小節目。 一見、外れているように聞こえる音が、実は計算し尽くされた「配置」によって、強烈な推進力を生んでいる秘密を解き明かします。

目次
パーカーの音選びは「パズル」である
チャーリー・パーカーのアドリブを聴いていて「かっこいいけど、どうしてこの音が成立するんだろう?」と不思議に思ったことはありませんか? 彼の音選びは、決してデタラメではありません。それは、眩しい「光」のメロディの中に、絶妙なバランスで「泥」や「影」の音をハメ込んでいく、精密なパズルのような作業なのです。
Dメジャー、ブルーノートC、外しのEb・Bb
今回の4小節を解剖すると、3つの異なる役割を持つ音が層を成していることがわかります。
- Dメジャーの「光」(E, G, A) アルトサックス(Eb管)にとっての基本。明るく開放的な響きで、フレーズの「安心感」を作ります。
- ブルーノートの「魂(泥)」(C) 本来のC#を半音下げた音。Dブルースのb7thであり、一気にジャズの野性味を注入します。
- 外しの「影」(Eb, Bb) スケール外のb9th(Eb)とb13th(Bb)。これらが「知的なスリル」と、次の展開への爆発的な推進力を生み出します。
パーカーが仕掛けた「光・泥・影」の正体
(アルトサックスEb管/Dブルース進行での解析)
今回のフレーズに使われている全音符を、その役割ごとに分類・集計しました。
| 役割分類 | 該当する音 | 音の意味(D基準) | 使われる割合(目安) | 解説 |
| 【光】メジャー | E, G, A | 2nd, 4th, 5th | 約60% (主軸) | フレーズの骨格。明るく開放的なメロディを作る。 |
| 【泥】ブルーノート | C | b7th | 約15% (アクセント) | ブルースの野性味を注入し、ジャズの文脈を保つ。 |
| 【影】外し(毒) | Eb, Bb | b9th, b13th | 約25% (スパイス) | 3拍目や最後に現れ、次への推進力と緊張感を生む。 |
パーカー流「3:1:1」のバランス論
アドリブをデタラメにしないための秘訣は、音選びの「比率」にあります。今回のパーカーのフレーズを汎用化すると、以下のバランスが見えてきます。
- 「光(メジャー)」を3音選ぶ【骨格】 フレーズの50〜60%は、やはり安定したメジャースケールの音であるべきです。これが聴き手に「メロディ」として認識させる土台になります。
- 「魂(ブルーノート)」を1音混ぜる【ニュアンス】 一滴のブルーノート(Cなど)が、綺麗なメロディを「ジャズ」の文脈へ引き戻します。
- 「影(外し)」を1音ハメ込む【劇薬】 3拍目やフレーズの最後など、勝負所でスケール外の音(EbやBb)を投入します。骨格がしっかりしているからこそ、この「一音の外し」が芸術的なスパイスとして輝くのです。
不安定を力に変える
パーカーにとって、不安定な音は「間違い」ではなく、次の展開へと聴き手を連れて行くための「エネルギー源」でした。 「100%の正解(光)を吹く必要はない。骨格となる光を大切にしながら、どこで『泥』と『影』を差し込むか。その比率のコントロールこそが、アドリブの真髄なのだ。」

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