本記事では、テナーサックスの巨匠スコット・ハミルトンのアドリブを詳細に解析する。一見、情感たっぷりに歌っているだけのようでいて、その裏側には驚くほどシステマチックな「型」の運用と、計算された「構成音」の選択が隠されている。

目次
解析:音の動きと構成音の役割
正確な音列に基づき、コード進行(Dm7 – G7 – CM7 – FM7)に対するアプローチを徹底解剖する。ここでは、ジャズで最も多用される「1235」のシーケンス(通称:コルトレーン・チェンジ)が、ハミルトンの流麗なフレーズの骨格を支えていることがわかる。
| 小節 | コード | コード構成音 (1,3,5,7) | 音の動き (in Bb) とその正体 |
| 1 | (Approach) | (Dm7: D, F, A, C) | E → A → E (最後のEは、次のFへの半音下アプローチ) |
| 2 | Dm7 | D, F, A, C | F → G → A → C (3度から始まるコルトレーン・チェンジ) F (コードトーン / 3度で着地) |
| 3-4 | G7 → CM7 | G, B, D, F / C, E, G, B | G → A → B → D (3度から始まるコルトレーン・チェンジ) ※DはCM7の頭だが、あえてDm7/G7の流れを維持した「型の暗示」。 |
| 4 | CM7 | C, E, G, B | E → G (コードトーン) A (スパイス:6thの甘い響き) E (コードトーン & 次のFへのアプローチ) |
| 5 | FM7 | F, A, C, E | F (ルートを伸ばす。どっしりと落ち着いた完全解決) |
「コルトレーン・チェンジ」と「小節をまたぐ型」の暗示
注目すべきは、F → G → A → C や G → A → B → D という動きが、まさに「コルトレーン・チェンジ(1235)」を応用したものである点だ。
- 型の継続: コードが変わっても、前の小節で使っていた型の慣性をそのまま持ち込むことで、フレーズが途切れず、聴き手には「大きな歌」として届く。
- ターゲットの先取り: CM7に入る前から「D」というターゲットを見据えて動く。この「型の継続」こそが、ハミルトンの流れるようなアドリブの真髄と言える。
CM7の「A」:違和感が生む色気
今回の白眉は、CM7で登場する A である。構成音(1-3-5-7)から少し外れるこの音こそが、ハミルトン流のスパイスとなっている。
- セブンスを避ける意図: 7度(B)へ行かずにあえて「A」に留まることで、音が尖りすぎず、スウィング・ジャズ黄金期の「C6」のようなノスタルジックで甘い響きになる。
- 放物線の頂点: このAが、最終的にEに戻り、次のFM7(F)へと半音で滑り込むための美しい曲線を作っている。
まとめ:解決を急がない「ルート」の重み
5小節目のFM7で、あえてルートの「F」を伸ばすという選択。 これまでのコルトレーン・チェンジや6度のスパイスによる豊かな動きを、最後にどっしりと受け止める。この潔い着地があるからこそ、前の小節までのテクニカルなラインがより一層引き立つのだ。
スコット・ハミルトンの演奏からは、「型(P1など)は、小節線に縛られずに使い切ってもいい」という、アドリブを自由にするための重要な教訓が得られる。

コメント